WAGYU KAPPO ODA
多彩な和牛料理を受け止める日本産米の品種を厳選
五感を刺激するごはんの提供スタイルが人気
「和牛割烹小田」は、鹿児島県で黒毛和牛専門農場の小田牧場を運営する小田畜産の直営店。生産者によるプレミアムブランド牛の小田牛は、餌に成長ホルモン剤や抗生物質などは使わず、米と大麦の配合比率が高い独自の飼料を与え、牛へのストレスがなく、衛生管理を徹底した環境で育てられています。同店では、炭火焼にしたり、肉寿司にしたり、すき焼きにしたり、多様な調理法を用いて提供。この小田牛の味わいと並んで評判なのが、お客の目の前で、土鍋で炊き上げる日本産米のごはんです。宮城県産ひとめぼれを使っていて、白いごはんはもちろん、すし飯や、さまざまな具材を合わせた炊き込みごはんにしてもおいしく、口コミでファンを増やしています。
香港で12年のキャリア、料理からマネジメントまで
僕はもともと海外で和食の料理人として仕事をしたいという夢がずっとありました。24歳の時に、香港のホテルの和食店で勤務する話があり、下見に。僕にとって初の海外でした。香港の方は和食が好きで、関西人のような気質と人情味があると言われます。僕は、専門学校時代から約8年、大阪に暮らしていたので、ノリが合ったんだと思います。2年契約が、いつの間にか12年目に突入しました。
すしが人気の和食店の料理長や、ホテルの和食店の総料理長を任されることで、料理を作るだけでなく、人材の採用や教育を含めたマネジメントについても学ぶことができました。パンデミックの影響を受けた2020年夏からは、フリーランスのシェフとして活動し、個人宅でのケータリングや、香港に進出している日本の飲食企業へのコンサルティングの仕事も手掛けています。
その縁でお世話になった日本の飲食企業、APカンパニーが運営する「和牛懐石うしどき」のヘッドシェフを2023年4月から務めてきました。同年12月に経営母体が小田畜産に移行。店は「和牛割烹小田」に生まれ変わりましたが、引き続きヘッドシェフとして料理からサービス、マネジメントまで見ています。
ホテルや店の料理に合わせて
日本産米の品種を使い分け
「和牛懷石うしどき」のころから肉料理は小田畜産の小田牛を使い、魚介類や野菜で季節感を出していましたが、「和牛割烹小田」になってからは「炭火焼リブアイステーキ」や、「和牛とキノコのトリュフごはん」、「和牛とウニの炙り寿司」といった小田牛メインのメニュー構成に変更。夜のおまかせコースは、小田牛のうま味を凝縮したコンソメスープや赤身の炭火焼き、肉寿司、サーロインのすき焼きを提供しています。
これらの肉料理に合わせて、お米の品種を選び直したのですが、日本人の料理人として和食に携わる僕には、日本産米以外の選択肢はなかったですね。これまでも、勤務する店やホテルで提供する料理によって、日本産のコシヒカリやこしいぶき、ななつぼしといった品種を使い分けてきました。
すき焼きからすしまで万能のひとめぼれ
「和牛割烹小田」で使うお米を選ぶに当たり、コシヒカリやゆめぴりか、ササニシキ、つや姫などを食べ比べて、最終的に宮城県産ひとめぼれに決定しました。まず、夜のおまかせコースのウリであるすき焼きと一緒に白いごはんのおいしさを堪能してほしいというのが念頭にありました。
すき焼きは、バターソテーした玉ねぎ、漬けにした卵黄を添え、トリュフをあしらっていて、小田牛の脂の甘味やうまみ、口どけが特徴です。それを引き立てるのは、柔らかすぎず、ほどよく歯ごたえがあり、繊細な味わいのごはんだと考えました。また、すし飯にしたり、炊き込みご飯にもするので、粘り気が強すぎないこともポイント。それらを考慮した結果、水加減を調整するだけで、ひとめぼれはオールマイティに使えると判断しました。
“土鍋で炊きたて”のシズル感、また来たい店に
ごはんは、カウンター席の目の前で土鍋で炊き、立ちのぼる湯気、店内に広がる馥郁とした香りなど、五感を刺激して期待を高めています。蒸らし終わって土鍋のふたを開け、炊きたてで粒が立ったごはんを見てもらうと、お客様から歓声が上がります。
昼は正午からなので、12時10分頃に炊きあがるように時間を逆算して米を研ぎ、浸水させて、炊いて蒸らしています。夜は18時30分、19時、20時30分に一斉に食事をスタートするスタイルなので、すき焼きとごはんを提供するタイミングに合わせて炊きます。
土鍋は三重県の伊賀焼窯元、長谷園の炊飯土鍋「かまどさん」を採用。この土鍋を使っているという香港人のお客さまもいて、日本の食に対する関心の高さを実感します。店舗での食事を機に、自宅で日本産米を炊いてみたくなる方も多いようで、サプライヤーのオンラインショップを案内することも。サイトでは、店で提供している「和牛とキノコのトリュフご飯」が再現できる、米やだし、具材がセット(3人分、180HKD)になった商品も販売しているので、ホームパーティーをする時にいいですよと紹介することもあります。
日本産米のすそ野拡大には
情報発信がカギ
香港ではタイ産やベトナム産の長粒米も広く流通しています。日本産米は他の輸入米に比べれば価格が高いものの、近年は輸入量も増え、小売店でも購入しやすくなってきました。今後、日本産米を導入する飲食店やホテルはもちろん、個人の消費者を増やすためには、丁寧な情報発信が欠かせません。
僕は、「和牛割烹小田」のヘッドシェフの仕事と並行して、フリーランスのシェフとしての活動も続けており、日本の県事務所が香港で開催するイベントに携わることもあります。例えば、香港のシェフに日本産米の利用を促進するためのイベントでは、炊く前の準備の仕方をレクチャーしてはどうかと提案。研ぎはじめの水は一番吸収するので軟水を使うことや、炊くときの水も軟水がよいこと。基本的な水加減を目安に、柔らかめ、かためといった好みで調整してよいこと。ふっくらとした炊きあがりにするためには、浸水時間を45分以上取ることなどをお伝えしました。
同じ米食文化ですが、香港ではもともと米を蒸して食べることが多かったんです。だから、土鍋や炊飯器は、熱が加わることで内部に圧力がかかって、爆発的に沸騰、対流が起き、ごはんがムラなく炊きあがるといった原理を知ってもらい、途中でフタを絶対にあけてはいけないなど、コツをお伝えすることが大事だと思います。お米の袋に美味しい炊き方を表示するといった方法もいいかもしれません。
日本産米のごはんは、つやがあり、粒が揃っているのが魅力。香港の人々の中には、日本産米はおいしいというイメージがあるので、せっかく買ったのにうまく扱えなかったことで、期待していたほどではないとの印象になるのは残念です。だからこそ、僕は、店での調理や接客はもちろん、フリーランスの活動を通して、日本産米をはじめ、日本の食材、食文化の奥深さを伝えていきたいです。
Recommended dish
Wagyu and mushrooms on truffle rice 和牛とキノコのトリュフごはん
出汁とトリュフを加えて炊き込んだ宮城県産ひとめぼれに、表面を炙った小田牛と、ウニやイクラ、ねぎを載せてていただく「和牛とキノコのトリュフごはん」。土鍋でふっくらと炊き上げたひとめぼれと、小田牛のうま味、濃厚なウニの味わい、イクラの食感、トリュフの香りが口の中で調和する絶品です。