Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

Koji Koike 小池浩司

Sushi KOIKE Owner Chef

Sushi restaurant In Singapore

「鮨こいけ」は、シンガポールではめずらしい、本場の江戸前ずしを堪能できると現地在住の日本人や食通が足しげく通うすし店。「本当のすしの文化を伝えたい」という思いを抱き、店を切り盛りするのが、オーナーですし職人の小池浩司さんだ。週4回、築地市場から直送した旬の魚介と日本産米にこだわる江戸前ずしを、シンガポールの地で発信し続ける理由と日本産米の魅力について語ってもらいました。

SHUSHI KOIKE

「The Japan」をコンセプトに、
日本産米と豊洲市場直送の魚介で“本物のすし”を伝える

「鮨こいけ」は、世界有数の金融街にほど近い、シンガポール川沿いの高級飲食街、ボート・キーエリアに建つすし店。コンセプトは「The Japan」。しゃりが口の中でほろりとほどけて、ネタのうま味が一体となって口の中に広がると評判です。シンガポール在住や出張、旅行で訪れた日本人に支持されるのはもちろんですが、それを上回る55%の来店客は、シンガポール人など日本人以外。食通の彼らからも、味は折り紙付きだ。人気の理由の一つが、豊洲市場から週4回届く新鮮な魚介。上質なマグロやウニ、イクラなどをはじめ、その時期にしか味わえないかすご鯛や赤ムツ、太刀魚、鮎、星ガレイ、天上鰤、香箱蟹といったネタを揃えています。そして、うま味が凝縮し、ほど良い粘りと弾力のある新潟県産コシヒカリを使ったしゃりのおいしさも、多くの美食家たちの心を捉えています。

正しく日本の食を伝えることが使命

僕の父は、1981年から東京・杉並ですし店を営む一方で、日本食の技能検定士として教育者の一面も持っていました。その姿を間近に見ていた私は、6歳のときに将来は板前になりたいと憧れ、店の手伝いをしたり、築地市場での仕入れに付いて行ったりしていました。高校を卒業後、日本料理店やホテルのすし部門などで研鑽を積み、縁あって2012年7月からシンガポールに移り住みました。 長年すしに携わってきたからこそ、シンガポールで「正しく日本の食を伝えること」が僕の使命。ローカライズされたすしももちろん美味しいですが、僕には“本物のすし文化”を背負っている責任があると思っているので、可能な限り江戸前ずしを再現し、味わってもらいたいと考えています。

洗練された現代の江戸前ずし

江戸時代に生まれた江戸前ずしは、冷蔵庫がなく流通網も発達していない時代に、東京湾で獲れた魚にひと手間加えて、日持ちをさせながら美味しく食べられるように工夫を凝らして発展してきました。「鮨こいけ」では、酢や塩で締めたり、醤油漬けにしたり、煮たりといった江戸前ずしの伝統的な技術を駆使しながらも、魚介の本来の味わいを最大限に活かした「現代の江戸前ずし」を、洗練された形で楽しんでもらうことを目指しています。

現在は週4回、豊洲市場で買い付けた魚介類が空輸で運ばれます。店の発注に沿って、目利きの仲買さんが選び、天候の状況などで希望の魚種が揃わないときは、代わりの提案をいただくといった深い信頼関係で、おいしく新鮮な魚介が届けられています。特に貝類やエビ、ウニなどは鮮度の良さがお客様に喜ばれていますね。一方で江戸前ずしは、すし飯とネタがなじむことが重要なので、マグロや白身魚などは締めてから数日寝かせてうま味を引き出し、溶けるような柔らかい口当たりになるよう仕上げています。

米はすしの「命」

僕が握るすしにおいて、米は命です。父が「すしで大事なのは米だ」と常々語っており、すしにしたときに美味しいすし飯づくりにこだわり、炊き方や酢の合わせ方の研究に打ち込んでいました。その姿を見てきたので、私もお米に対して思い入れが強いですね。

現在「鮨こいけ」で採用しているのは、新潟県産のコシヒカリで、2014年から現在まで使い続けています。シンガポールに来てすぐに働いていた店で採用していたお米は、すし飯として使いづらい点があり、サプライヤーに相談したところ、紹介してくれたのが、新潟県南蒲原郡で有機肥料と天然ミネラル原液を与えてお米の栽培をしているジョイントファーム代表取締役の大野秀恩さんが作るお米でした。

強く弾力があり、うま味が凝縮

大野さんはシンガポールまでお米を持ってきてくださったんです。炊く前の生の米だったのですが、それを見た瞬間、僕が握るすしにとって理想の米だとわかりました。まず、やや大粒で、粒が揃っている。また、お米は精米する過程で割れてしまうこともあるのですが、大野さんの米は一粒も割れていない。つまり、強くて弾力があるということです。そして実際に炊いてみると、ふっくらとしていて、ほどよい粘りがありました。

僕が理想とするすし飯は、ひと粒ひと粒がしっかりとしていて、口の中に入れたときにシャリがほどけて、ネタと一緒にしっかり噛んだときに美味しさを感じ、飲み込むと旨味が広がっていくというもの。大野さんが作るコシヒカリは、まさにぴったりでした。大野さんが作る米はひと言で表現すると、うま味が凝縮されている“健康で元気”なお米。お客さまからも「このキュキュっとしたお米の食感がおいしい」と褒めていただくことが多いですね。

炊き方と蒸らし方が
すし飯のおいしさを左右する

すし飯は、すしの味わいを決定づける存在です。だからこそ、繊細で高度な調整が大切です。僕がすし飯を作る時に大事にしているのは、蒸らし時間です。普通のごはんを炊くときに25分蒸らすとしたら、すし飯にする時は17分くらい蒸らしたタイミングで飯台に移し、合わせ酢を加えます。ごはんの温度が高いうちに、手早くごはんの中に味を浸透させることで、べちゃっとせず、つぶが立った、つやのあるすし飯になります。

お米は農作物なので、いつも通りの水加減で炊いても、少し柔らかい、かたいなどのブレが生じます。そういう時は、水加減を50㏄減らしてとか、蒸らす時間を短くしてというように、スタッフに細かく指示を出しています。

体験で、日本の食文化を伝えたい

一緒に働いているスタッフは、シンガポールやマレーシアなど、いろんなバックグラウンドを持っているのですが、彼らにはすしや日本料理の技術だけでなく、扱う食材の背景も伝えていきたいですね。2020年に大野さんの田んぼで、スタッフとともに田植え体験をする予定だったのですが、パンデミックの影響で断念したので、改めて実現したいと思っています。シンガポールは食料自給率が低く、農作物がどのように育つかを知らない人も多いので、日本でのお米の栽培に少しでも関わることで、お米への愛情が強くなるのではないかと思います。微力ながら、そういう体験、教育を通して、おすしの文化を伝えていきたいですね。

Recommended dish

Omakase nigiri おまかせ握り

鮨こいけではランチ、ディナー共に、握りはおまかせで提供しています。いずれも週に4回、豊洲市場から届く新鮮な魚介を使用。濃厚な味わいの北海道産ホタテをはじめとする貝類や、江戸前寿司の代表格、ふっくらとした煮穴子が人気です。

小池浩司

鮨こいけ オーナーシェフ

「鮨こいけ」オーナー。実家は代々東京・杉並ですし店を営み、板前にあこがれ、6歳から店を手伝い、築地市場での仕入れにも付いて行って、魚を見る目を養った。高校を卒業後、東京・日比谷の日本料理店「鴨川」で料理人の修業をスタート。東京・恵比寿のウエスティンホテル、実家のすし店などで腕を磨く。シンガポールですしの普及に尽力した野川義夫氏が開業した東京・東銀座の「寿司懐石 野川」で板長を任され、シンガポールとの縁が生まれる。台湾でのすしの技術指導を経て、2012年7月からシンガポールに移住。居酒屋のすしコーナーを任された後、2016年に江戸前ずし店「Sushi Saburoku」の立ち上げに参画。この店を引き継ぐ形で2020年4月から「鮨こいけ」のオーナーシェフとなる

鮨こいけ

Sushi restaurant in Singapore

世界有数の金融街にほど近い、シンガポール川沿いの高級飲食街、ボート・キーエリアにある「鮨こいけ」。日本のすし店のような端正かつ清潔感のある店構えで、白木のカウンター席(11席)を中心に、個室(6席)がある。刺身や握り、料理、みそ汁、デザートなどがついたおまかせコースは、昼は168~288SGドル、夜は250~400SGドル(付加価値税、サービス料は別途)。36 Circular road Singapore 049392 

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