Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

JT Vuong JT・ヴォング

RULE OF THIRDS Executive chef/co-founder

Japanese restaurant In New York

「RULE OF THIRDS」は、アメリカ・ニューヨーク市のブルックリン地区にある日本食レストラン。人気の日本食レストラン「Okonomi」「Osakana」などで経験を積んだJT VuongさんとGeorge Padillaさんが共同で創業した最先端のコスモポリタン居酒屋。刺身や焼き鳥、おばんざいなど本格的な日本食に、ニューヨークのエッセンスを取り込んだメニューの数々が人気です。「RULE OF THIRDS」では、おにぎりや丼、すしなど全てのごはんものに日本産米を採用しています。その理由を、エグゼクティブ・シェフで共同創設者のJTさんに伺いました。

RULE OF THIRDS

日本の家庭料理や居酒屋文化を色濃く反映した、
ニューヨークスタイルの日本食

アメリカ・ニューヨークのブルックリン地区にあるグリーンポイントのノーマン・アベニューのほど近く。ここに、感度の高い人たちが集う人気のレストラン「RULE OF THIRDS」があります。シェフのJT VuongさんとGeorge Padillaさんが打ち出すのは、日本の家庭料理や居酒屋文化と、地場の食材やインスピレーションが融合した日本食。ふっくらと炊き上げたごはん、しっかりと出汁をとった味噌汁、きゅうりの漬物、東京から空輸した鮭や鯖などの焼き魚が並ぶ手の込んだ定食をはじめ、牛丼や鉄火丼などの丼もの、おにぎり、押し寿司など、ごはんを使った料理は実にバリエーション豊か。これらの料理に欠かせないのが、日本産米だといいます。

おにぎりには、日本産米コシヒカリ

現在、「RULE OF THIRDS」では、2種類の日本産米を採用しています。ひとつは、日本産コシヒカリで、主におにぎりと焼きおにぎりに用いています。それまでは、カリフォルニア産コシヒカリを使っていたのですが、カリフォルニア産の米が不作だった年に切り替えることにしました。

当初は代用品として日本産コシヒカリを使うことにしたのですが、実際には、代用品とは言い難い素晴らしいもので、現在に至るまで使い続けています。品質的にも優れているし、調理する上でも安定感があったので、ごはんを炊く際に微調整をするなどの手を加える必要がほとんどありませんでした。

価格も納得の品質の高さ

日本産コシヒカリは、カリフォルニア産コシヒカリと炊き方に大きな違いはありません。違うのは品質です。日本産コシヒカリの方が品質の安定性で優れていて、ひと粒ひと粒がとても均質。カリフォルニア産コシヒカリには小石が入っていたこともあったのですが、日本産コシヒカリでそのようなことは一度もありません。

ただどうしても、日本産コシヒカリはカリフォルニア産コシヒカリに比べると価格が高い。でもそれに見合うだけの価値があると思います。なぜなら「RULE OF THIRDS」のお客さまは、ごはんのおいしさに満足できれば高価格でも納得するから。逆にごはんの味が悪ければ、きっと多くの問題が起こるでしょう。

時間が経ってもおいしさが続く

実は、米の切り替えを検討した際、それまで使っていたカリフォルニア産コシヒカリと同じ短粒種だけでなく、中粒種という選択肢もありました。でも中粒種は、コストを抑えられるかもしれませんが、私たちが作る料理のスタイルにしっくりくるものではありませんでした。また、中粒種は炊いてから1〜2時間後経ったとき、短粒種よりもおいしさが劣っていたのです。

もしもあのとき、中粒種しか選択肢がなかったとしたら、「RULE OF THIRDS」で提供する米のメニューの多くを見直さなければならなかったでしょうね。中粒種は短粒種と見た目も味も異なりますし、それをどう応用すればおいしい料理になるかも変わってきますから。当然、中粒種のお米の炊き方をスタッフに再教育する必要もあります。実は私自身、短粒種のお米を食べて育ったこともあり、馴染み深い短粒種を選ぶのは自然なことだったと思います。

すし飯には、北海道産ななつぼし

「RULE OF THIRDS」で採用するもう一つの日本産米は、北海道産ななつぼしです。現地で精米した新鮮で品質の高い米で、さまざまな品種のお米をリサーチしていたところ、このななつぼしは「RULE OF THIRDS」で提供する定食にぴったりだとわかりました。現在は、主にテーブルライスやすし飯に使っています。

このななつぼしは、私たちが注文してから精米されるため、米本来がもつ水分が多く含まれています。そのため水の量を調整しながら炊き上げています。ななつぼしは、日本産米ならではの特徴をもちながら、あらゆる人に喜ばれるバランスのとれた味わいを持っているように感じています。ほど良い粘りで、とても滑らか。そして炊き上げたときに香りが良く、冷めてもおいしいんですよ。

さまざまな嗜好に応える
バランスの良さ

「RULE OF THIRDS」が食材選びで大事にしているのはバランス。なぜなら、私たちのように比較的大きな規模のレストランは、訪れるお客さまもその嗜好もさまざまだからです。たとえばお米なら、やわらかめが好きな人もいれば、硬めが好きな人もいる。それに、お米を食べて育った人たちは、お米に対して強いこだわりもある。以前、カリフォルニア産のコシヒカリを使用していた時は、たまにお客さまから「このごはんは柔らかすぎる」などの意見をいただくことがありました。しかし、ななつぼしに変更してからはそうした不満を聞くことはなくなりました。水分量が安定していて、バランスよく炊けるからではないかと思います。どんな嗜好の人も満足させる高い品質を持っているからではないでしょうか。

正直なところ、北海道産ななつぼしは、日本産コシヒカリと同様に値が張ります。でも、誰でもおいしいものにはちゃんとお金を払うはずです。このごはんが、日本から輸入されたななつぼしだと知ればなおさらでしょう。それに、お米はアジア料理において欠かせない主食です。お米をあまり食べてこなかったり、さまざまな品種のお米を食べたことがない人にとっても、一度食べてもらえたら味覚の幅が広がるのではないかと期待しています。

実は私自身、自宅でもこのななつぼしを愛食しているんです。このおいしさをもっとたくさんの人に広めたいですね。また、できるならもっとさまざまな品種の日本産米がアメリカに輸入されたらいいなと思っています。きっと見た目も、味も、香りも、品質も、それぞれ違うはずだから。そして、たくさんのお客さまに日本産米に親しんでもらえたらうれしいですね。

Recommended dish

Tonkatsu トンカツ

ふっくらと炊き上げた北海道産ななつぼしと一緒に食べたい「RULE OF THIRDS」の「トンカツ」。豚肩ロースをブルックリンの酒蔵「Brooklyn Kura」の酒粕に漬け込んでパン粉をまぶし、油でからりと揚げられています。マスタードとレモン、キャベツ、そして自らアレンジした“paul-dog sauce”を添えていただく人気メニューです。

JT ・ヴォング

RULE OF THIRDS エグゼクティブ・シェフ/共同創設者

「RULE OF THIRDS」のエグゼクティブ・シェフであり、共同創設者。台湾に生まれ、マンハッタンのチャイナタウンで育つ。ボストン大学卒業後、ニューヨークに戻り、原口雄次さんがシェフ兼オーナーをつとめる「Yuji Ramen」に勤務。その後、原口さんが経営する日本食レストラン「Okonomi」のシェフをつとめ、2020年に同シェフのGeorge Padillaと、レストラン経営者であるSunday HospitalityのTodd Enany、Adam Landsman、Jaime Youngとタッグを組み、「RULE OF THIRDS」をオープンさせる。

RULE OF THIRDS

Japanese restaurant in New York

アメリカ・ニューヨーク市のブルックリン地区にある日本食レストラン。日本の家庭料理や居酒屋文化と、地場の食材やインスピレーションが融合した日本食を提案する。ごはんと味噌汁、焼き魚、漬物の定食をはじめ、牛丼や鉄火丼などの丼もの、おにぎりなど本格的な日本食をはじめ、唐揚げや焼き鳥、刺し身などのおつまみも豊富に揃える。ドリンクも日本の食材を使ったカクテルのほか、さまざまな銘柄の日本酒もラインナップ。85席。171 banker st., brooklyn, ny 11222

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