Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

YUTA KOUNO 河野 勇太

DUGOUT Owner chef

Japanese Restaurant in Japan

昔ながらの下町情緒溢れる商店街や住宅街など、程よく生活感のある温かな街並みを残しながら、駅周辺の再開発でより利便性も進化しつつある武蔵小山駅。そんな街の一角にひっそり佇む「ダグアウト」は、目黒にある「鮨 りんだ」のオーナー・河野勇太さんが、カジュアルラインの姉妹店「鮨 ブルペン」の隣にひっそりオープンさせたカウンター全6席の隠れ家寿司店。徹底したお客様ファーストの活気溢れる「鮨 りんだ」のメニュー構成を軸に、より遊び心と特別感を散りばめた演出で、訪れる人々の心を虜にします。若い頃に熱中した野球のごとく、ストライクから変化球まで軽やかに繰り出す寿司職人・河野さんの日本産米との向き合い方を伺いました。

ダグアウト

貸切カウンターで存分に味わう
おまかせ寿司コース

武蔵小山を通る国道の中原街道沿いにバルのような賑わいを見せる「鮨 ブルペン」。その隣にあるのはジューススタンド? ではありません。この店こそが、人気寿司店「鮨 りんだ」「鮨 ブルペン」を束ねる河野勇太さんが腕を振るう新たな系列店「ダグアウト」です。職人の動線を念入りに考え配置された調理場を囲むカウンターは、計6席。基本は貸切一斉スタートで、つまみから握りまで、その夜限りのおまかせコースを提供します。コースの皮切りは、前菜(先付)ではなく握り寿司。数ある新鮮な寿司タネの中から、とろけるような上質な脂が自慢の中トロと、旨味を湛えた旬の魚介を使った握り2貫で、名刺代わりのインパクトを与えます。その後は、茶碗蒸しやお造り、小鍋などの一品と握りを交え、リクエストには即興で対応しながら、終盤の玉子焼き、あら汁、実家の農園で作るみかんジュースまで、息も付かせぬ職人技とエンターテイメント性を融合。カウンターを一つの舞台に見立て、「次は何が出る?」というワクワク感と驚きを引き出す演出で、訪れる人々の胃袋と心を鷲掴みにしています。

自身の寿司職人像を追求した多店舗展開

僕の実家は四国の西側、愛媛県宇和島市のみかん農家です。畑のすぐ側には海が広がっていて、親の仕事を手伝った後に海釣りをしたり、登校途中に寄り道をしてタコを捕まえたりして育ちました。僕自身も海が好きで、多様な種類の魚と触れ合える職業をと考え、寿司職人の道を選びました。高校を卒業して地元で3年間修業した後、上京。軍資金30万を握りしめて都内の寿司店を食べ歩き、私の今の基盤を作った恵比寿「松栄」の門戸を叩きました。「松栄」に決めた理由は、複数の店舗展開があり、どの店も若い職人が和気あいあいと仕事をしていたから。大将の見た目や立ち振る舞い、私たちに対する指導も、イメージしていた寿司職人とは違ったクールな格好良さがありました。私も、もし自身に万が一のことが起きてもお店が回る、そんな未来まで続く飲食店を築きたいという想いがあったため、調理技術はもちろん、型に囚われない柔軟な姿勢と経営力を存分に学ばせていただきました。

海外赴任で出会った寿司文化

寿司職人としての転機は、25歳の時に「松栄」のニューヨーク支店へ転勤になったこと。そこで、海外の方たちが好む味や食感などを目の当たりにしました。例えば、サーモンスキンロール。サーモンの皮をカリッカリに焼いて砕き、ほぐした身と一緒に敢えて巻物に入れたもので、ザクザクした食感が好評でした。今回レシピでもご紹介したお米を揚げたせんべいも同じように活用していました。他にも、スパイスやマヨネーズをふんだんに使うなど、日本の修業では体感できない斬新な寿司文化が印象的でした。また、日本から食材が届くのは週2回だったため、食材管理や保存も勉強になりました。この職業において海外で学べる機会は、貴重だったと思います。

帰国後は、再度本店で数年修業を重ね、2014年に独立。1店舗目の「鮨 りんだ」をオープンしました。一人前になるまで長年の修業が必須である寿司業界の中で、オーナーである私自身もカウンターに立ちつつ、若手を育成しながら店舗展開を進めています。2店舗目の「鮨 ブルペン」もこの「ダグアウト」も、そういった意味では若手の登竜門であり実践経験を積む場として活用したいと考えています。

もちろん、寿司や料理のクオリティは一切妥協しません。食材はあれこれ触り過ぎずシンプルに。その上で、驚きのある新たなエッセンスを加えて仕上げる。例えば、看板料理の一つでもある魚介の小鍋は、スペイン料理のアヒージョからインスピレーションを受け、オイルをだしに変えて仕立てたもの。中華風のおこげを最後にじゅわっと加えるなど、ちょっとしたアレンジで心を掴む料理を心がけています。

和食店と寿司店における日本産米の立ち位置とは

同じ日本料理でも、和食店と寿司店とでは必要とするお米の性質が違うと思います。土鍋で炊き立ての白米や炊き込みごはんを出す和食店は、炊き上がりがもっちりして柔らかく、甘味を十分に噛み締められるお米がいい。お米の旨味を十分引き出すために、浸水時間をたっぷり取り、気持ち柔らかめに炊くなどして、炊き立ての香りとおいしさを重視します。

対して、寿司店では通常お米を酢飯として扱います。魚(タネ)と一緒に食べた後、最後口の中に2、3粒ぱらりと残る米粒の余韻を楽しめるのが、良いお米。もっちりし過ぎてはダメなのです。お米の水分を飛ばすため、和食店の工程と比べて炊く時間や蒸らし時間を長めに取って炊き上がりを調整しています。私の店では、新米と古米を7:3でブレンド米に。毎年出来が違うお米を、安定した味にするための工夫です。また、洗った時に米かすがどれだけ落ちるかで、その年のお米の品質(割れ具合)がわかるため、必ず毎年候補を食べながら確認しています。

いずれにせよ、品種やブランドありきではなく、私たち料理人がどれだけの経験でどれだけおいしく扱うか。炊いている鍋の中を見なくても、米の特性やその時の状態、鍋の種類や沸き方、火の当たり方などで炊き上がりを細かく調整し、同じクオリティに持っていくか。それは和食店も寿司店も変わらない、日本料理人としての技ではないでしょうか。

日本産米と海外産米の違いと本質

実はニューヨーク支店では、日本産米ではなく海外産米を使っていました。炊き上がりは、やはり日本産米の甘やかな香りが唯一無二ですね。海外産米は、その土地の水の違いなのか独特のクセがあるように感じました。でも寿司飯として使うには十分満足していました。海外産米もおいしいものはあると思います。

私たち飲食店は、良質な日本産米を使わせていただいています。ただ、仕入れる日本産米の全てが毎回同じクオリティではありません。他の農作物と比べても栽培に手間暇がかかると言われているお米は、もちろん手をかければかけるほど品質は向上し、手を抜けばそのレベルの作物になる。その年の良し悪しを見極めた上で、数ある日本産米から選択し、その個性を引き出す調理をする、その積み重ねが「おいしい」に繋がると思うのです。どんなに高品質なお米も気を遣って炊かないと艶や香り、甘味を引き出せない。素材の質だけに頼らずどういう風にしたらよりおいしくなるか。それが私たち料理人の仕事です。それだけ、毎日対峙してきた。そういう意味においては、自国の宝である日本産米への敬意を保ちながら、料理へと昇華させて行きたいと思います。

口の中で「寿司」を作る感覚で日本産米を楽しもう

「白米が最高!」と感じるのは日本人特有の感覚で、海外、特に欧米や西洋圏の人々は、(食文化にもよりますが)寿司以外になかなかお米に触れる機会は少ないのかなと思います。また、白米とおかずを別々に食べることはせず、リゾットのように最初からスープと煮込む料理や、具材と米が一緒になった混ぜごはんの方が親しみやすい方が多いです。

ごはんとおかずを交互に口に入れて咀嚼する日本人の食べ方は、口内調味と言われています。それは、別々の料理を口の中で一体化させる、いわば口の中で寿司を作っているようなもの。だから、寿司に抵抗のない方ならぜひ炊き立ての白米と好きなおかず(チキンでもハンバーグでも、フィッシュ&チップスでもなんでもいい!)を用意して、交互、もしくは重ねて口の中で初めて混ぜ合わせ、味わってほしいのです。きっと新たなおいしさに気づくから。「口の中で寿司を作ろう」が合言葉です。そして、お米の魅力に気づいたら、ぜひ日本の寿司職人の技を「日本産米」で味わいにきてくださいね。

Recommended dish

Nigiri-zushi (served as part of a course) 握り寿司(コースの一品として提供)

昆布とにがりを少量加え、羽釜でやや硬めに炊き上げた白米に赤酢を効かせて作る酢飯は、季節ごとの旨味を湛えた魚介類を懐深く受け止める。必ず提供する中トロは、口の中で均一に溶けるよう薄くカットし3枚重ねに。上質な脂身とほのかに広がる煮切り醤油の余韻に酔いしれる一品。ある日のおすすめ、イワシの握りは表面を軽く炙り、同じく炙った海苔を巻いて提供。軽い歯触りの海苔の奥で一体化する旨みを存分に感じたい。

河野 勇太

DUGOUT Owner chef

目黒の人気店「鮨 りんだ」の寿司職人。1982年愛媛県生まれ。海の側で育ち、魚好きが高じて高校卒業後寿司職人の道へ。地元で修業後上京し、恵比寿「松栄」の門を叩き、ニューヨーク支店を含め計13年の研鑽を重ねる。2014年「鮨 りんだ」のオープンを皮切りに、「鮨 ブルペン」「ダグアウト」と、現在3店舗の経営を担う(2024年に「鮨 りんだ」はリニューアルオープン)。若手の育成にも力を注ぎ、日本の寿司業界の課題と日々向き合う。

Instagram ID:@yuta.kono_rinda

 

ダグアウト

Japanese Restaurant in Japan

「鮨 りんだ」「鮨 ブルペン」の系列店で、ジュースとソフトクリームのテイクアウト店という表の顔を持ちつつ、知る人ぞ知る隠れ家的寿司店。「鮨 りんだ」のおまかせコースを継承しつつ、お客のリクエストに応えた握りや即興つまみを作るなど、各職人の個性とエンターテインメント性が滲み出る構成が魅力。貸切カウンター6席。細やかな手仕事が光る寿司の数々と、各国料理のエッセンスが散りばめられた一品を余すことなく味わえるコースは、おまかせ33,000円 (サービス料別10%)。

Instagram ID:@dugout0604