薮崎 友宏 | Japan Rice

Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

Tomohiro Yabuzaki 薮崎 友宏

Chinese restaurant in Japan

MINAMI AOYAMA Essence Owner chef

ハイブランドの旗艦店やアンテナ感度の高いショップが立ち並ぶ南青山には、美術館やギャラリーなども多く、ファッションと文化の発信地として知られています。旬のレストランや注目のカフェなどもあり、トレンドの最先端が集まっている街ですが、大通りを一本裏手に入れば落ち着いた雰囲気の高級住宅街が続きます。
アンテナ感度の高い大人たちが行き交う洗練されたこの街の一角に店を構える「南青山Essence」は、身体と心を癒す薬膳中華料理とワインのペアリングを楽しめるナチュラルスタイルのチャイニーズレストラン。薬膳中華のパイオニア的存在であり、ソムリエ・エクセレンスの資格を持つオーナーシェフの薮崎友宏さんは、日本古来の神道における神職の資格も有しています。食材ひとつ一つへのこだわりを持つと同時に、「お米は、日本の食文化の根幹を成すもの」と語る薮崎さんに、日本産米ならではの魅力について伺いました。

身体と心を癒す薬膳中華。素材の美味しさをそのまま活かす

身体と心を癒すことをコンセプトに、素材にこだわった薬膳中華料理を提供する「南青山Essence」は、東京都・南青山の路地裏に店を構えるナチュラルスタイルのチャイニーズレストラン。洗練された南青山の地域にマッチするモダンな空間で、ゆったりと料理を楽しむことができます。

オーナーシェフの薮崎友宏さんは、中国に伝わる薬膳の考え方“天人合一(てんじんごういつ)”の教えに基づき、季節に応じた旬の食材にこだわり、身体と心を癒す薬膳中華料を提供しています。自然界の変化に応じて生きることが養生につながるという“天人合一”の考え方のもと、「旨味調味料や化学調味料を一切使わず、旬の素材の味わいを活かすこと」を追求し続けた果てに、栃木県足利市に自家農園を構えるまでに。自ら年間200種類もの野菜を育て、安心・安全な旬の食材を用いています。

また、農林水産省による料理人顕彰制度「料理マスターズ」を受賞して以来、日本各地の生産者のもとを訪ねて直接話を聞き、栽培や飼育に対する哲学に共感した方々の食材を仕入れています。お米にもこだわりを持ち、栃木県足利市で20代以上も続く農家と年間契約を結び、清浄な湧水を引いた田圃で栽培されたミルキークイーン品種のみを使用。コース料理では、一人用の土鍋で炊いて提供することもあり、もっちり・しっとりとした食感と、甘み・旨みを最大限に楽しめるように工夫しています。

母の死や師との出会いを経て、薬膳料理の追求へ

実家が静岡県の片田舎で食堂を営んでいたため、父親の後を継ぐため、横浜・中華街にある広東料理の老舗「菜香」グループで修行を積むことになりました。しかし、翌年に母が糖尿病を患って亡くなったことで、食が身体と心に及ぼす影響について深く考えるようになったのです。

母を亡くした後も修行を続けましたが、中国料理というものは、学べば学ぶほど“医食同源”(※)の考え方に向かっていくもの。宮廷料理や皇帝料理では、健康を意識した食事の提供が重要になります。そうすると、行き着くところはやはり“薬膳”だったのです。

私は現在、NPO法人全日本薬膳食医情報協会で理事長を務めていますが、30歳を迎える頃、薬膳の師となる初代理事長・岡本清考先生に出会ったことが大きかったと思います。イベントを通じて、岡本先生の考えた薬膳レシピを料理人として実現する機会に恵まれ、そこから本格的に中国薬膳の勉強を重ねていきました。

その後、2007年に「菜香」グループを卒業し、南青山Essenceを立ち上げて料理長に就任しました。2008年に経営権を引き継ぎ、オーナーシェフとなりましたが、以来、ワインとペアリングに注力したり、内装をよりモダンなものに変えたり、自社農園で野菜や果実、薬草などの栽培を始めたりするなどで、薬膳中華をより進化させていくこと目指してきたのです。

※病気を治療するのも日常の食事をするのも、ともに生命を養い健康を保つためには欠くことができないもので、源は同じだという考え

足りないものを補うのではなく、旬の素材の持ち味を活かす

中国料理というものは、深く食材にこだわるよりも、「あるがままの食材をいかに美味しくするか」という部分が大きいように思います。そのため、化学調味料をたくさん使うことで食材の物足りなさを補う店も多い。しかし、私自身はそれとは逆に、食材ありきの考え方を大事にするようになりました。「素晴らしい食材に対し、中国料理の技法をいかに用いて、どう美味しくするのか」と。つまり、中国料理でよくある味わいを強くする調味料を使うよりも、それぞれの素材の味わいを活かす料理を作ることを追求するようになりました。自家農園で野菜を栽培するようになったのも、素材を大事にし、旬の味わいにこだわりたいと思ったからです。

私が大切にしている“天人合一”の考え方に通じますが、やはり旬のものをいただくことこそが、薬膳の基本なのです。旬の食べ物は「美味しいから食べるのだろう」と思っている方は少なくありませんが、薬膳の考え方では、「旬の食材とは、自然と身体が求めているもの」なのです。例えば、暑い時期には身体に溜まった熱を冷まし、寒い時期には温めてくれる。そうした旬の食材を、いかに美味しく味わっていただくかが大事ですし、走りの時期と終わりの時期ではまた変わってくる。調理方法だけでなく、メインの食材に使うのか、付け合わせに使うのか、その時期にその食材が持つ良いところを最大限に活かすことに、自分の腕が問われていると感じますね。

そのまま食べても美味しい日本産米が、プラスαの旨みを引き出す

中国料理におけるお米の役割については、チャーハンやお粥のイメージを持つ方が多いのではないかと思います。「どのようなお米を使ったところで、大して変わらないのではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし、私にとっては、まず、そのまま食べて美味しいお米であることが大事であり、かつ、「チャーハンにして美味しい」「お粥にして美味しい」というお米でなくてはならない、と考えています。

私が使っているミルキークイーン品種は、もちもちとした食感なので「チャーハンには向かない」と思う料理人の方もいるでしょう。しかし、もちもちとしているのは中心の部分のみで、その周囲はしっかりとしています。チャーハンにしてもお粥にしても崩れることはなく、むしろ、そのもっちりとした食感と甘みがプラスαの旨みを引き出してくれるのです。

また、当店では薬膳中華とワインのペアリングをお勧めしていますが、「お米とワインのマリアージュ」と聞くと、難しいのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、そこに、中華の味わいを持つおかずが一品加わるだけで、とても複雑なハーモニーを醸し出すことができます。

当店の名物である「足利マール牛の海老みそ炒飯」は、ロゼワインでも白ワインでも合う。足利マール牛は、ワインの搾りかすを飼料に加えて肥育しています。ある程度の生育が進んだ牛は、食欲が減退しがちなのですが、ワインの搾りかすを加えることで食欲が増し、細かい脂のサシが全体に広がるように入ります。そこに、海老を発酵させた味噌を加えて炒めることで、互いの味が引き立ちますし、足利産のミルキークイーン米が、それらをしっかりと包み込んでくれるのです。

私は中国料理のシェフではありますが、日本人である自分として、そして、日本で店を構える料理人として、料理を支えるためにお米があるのではなく、お米を美味しく食べるために料理があるのだと思っています。

日本古来の神道の視点で捉えると、お米はただの食材ではなく、「日本人のルーツ」

私は、日本古来の神道において、神職の資格を持っていますが、そうした視点からすれば、まさにお米というものは「日本の食文化の根幹を成すもの」なのです。日本人の歴史や生活にしっかりと根付いているものが、お米なのです。

お米は神からの授かり物であり、日本の太陽神である天照大神(あまてらすおおかみ)は、自身の孫が地上に降ったとき、「民が飢えることがないように」と稲穂を授けてくださった。「誰も困ることがないように、この稲がしっかりと育つような国にしなさい」と。ですから、お米はただの食材ではなくて、日本人のルーツとなるものなのです。

神社に奉納する供物においても、最上位にくるものはお米であり、その次がお米から作られたお酒、そして、その次にくるものが、もち米を使ったお餅です。それに、租税を米で納めていた国なんて、日本くらいのものでしょう。それほど、お米というものは、日本人にとって切っても切り離せないものなのです。

そんな日本という国だからこそ、お米の美味しさを真剣に追求し、ここまで品種改良してきたわけなのです。私が思うに、ここまでお米を進化させ続けている国って、おそらく日本以外にはないんじゃないかな、と。日本のお米は、炊き立てが美味しいのはもちろんですが、冷めても美味しい。昨今は、海外の方にも“おにぎり”が人気だと聞いていますが、それは、冷めても美味しく味わえるようにこだわりを持って作られた、日本産のお米ならではのものだと思います。

稲穂が実る日本の美しい原風景が、お米の美味しさをより引き立てる

日本人なら、お米を炊くことができる炊飯器や土鍋を持っている方がほとんどではないかと思いますが、実は中国料理のちまきや饅頭のように、蒸すだけでも美味しく炊くことができます。もちろん鍋でも炊けますし、調理器具を選ばずに簡単に美味しく味わうことができるのも日本のお米の魅力でしょう。

当店にご来店いただく海外のお客様には、お箸が苦手な方も多く、スプーンを使って気軽に食べられるチャーハンが人気ですが、一人用の土鍋で炊いたお米を麻婆豆腐などのおかずと共にいただくスタイルを面白がってくださる方も多いですね。お箸ではなく、スプーンでも構わないので、ぜひチャーハン以外のお米の食べ方も楽しんでいただけたらと思います。

それともう一つ。できれば、お米が実っている田園風景をその目で見ていただけたら、と心から思うのです。金色の稲穂がどこまでも続く美しい風景には、誰もが感動するはずです。そして、日本の原風景を見た上で味わっていただくお米は、最高に美味しいことでしょう。

加えて言えば、薬膳の観点では、お米には「気力を高める」「胃腸の調子を良くする」「お肌の調子を良くする」という効果があります。見て良し、味わって良し、さらに、食べた後にも良い効果をもたらしてくれる日本のこだわりのお米に、ぜひ触れていただけたらと思います。

Recommended dish

Shrimp miso fried rice with Ashikaga Marc beef 足利マール牛の海老みそ炒飯

人気のアラカルトメニュー。栃木県足利市にあるココファームワイナリーのマール(ワインなどを造る葡萄の搾りかす)や足利産の二条大麦や大豆など、安全安心な飼料を食べて育った牛の肉を使用し、海老を発酵させた味噌で炒めたチャーハン。海老の香りと旨みに加え、発酵調味料ならではの独特の香りが、ミルキークイーン米の味わいを引き立てる。

薮崎 友宏

MINAMI AOYAMA Essence Owner chef

南青山Essence、オーナーシェフ。1973年、静岡県生まれ。実家が食堂を経営。父より料理を学んだ後、横浜・中華街の広東料理の名店「菜香新館」で修業を開始。営業時間外に、割烹料理店や居酒屋、バー、中華料理店などのさまざまな店舗で料理や経営について学ぶ。1998年、25歳で「菜香グランデュオ立川店」の料理長に就任。2005年、NPO全日本薬膳食医情報協会の初代理事長・岡本清孝氏の指導のもと、国際薬膳調理師試験に合格。2007年、退職して南青山エッセンスを立上げ、料理長に就任。2008年、同店の経営権を引き継ぎ、オーナーシェフに。2012年、農林水産省による「料理マスターズ」ブロンズ賞を、2021年にシルバー賞を受賞。現在、「NPO法人全日本薬膳食医情報協会」の4代目理事長を務める。

Instagram ID:@yabuzaki_tomohiro/

南青山Essence

Chinese restaurant in Japan

“天人合一”の考え方をもとに、「その季節にとれる旬の食材を食べること」を大事にし、安心・安全な食材にこだわる薬膳中華料理を提供。旨味調味料や化学調味料を使用せず、自社農園で栽培する手作りの野菜や果物、薬草や、信頼できる生産者から取り寄せた国産の食材を使用。安全・安心な食材にこだわると同時に、旬の食材の味わいをそのまま活かす調理法にこだわっている。カウンター4席、テーブル20席(2名席✕2、4名席✕4⇛最大16名様までロングテーブルで繋げることが可能)、個室4席(小学生以上のお子様ご利用可)、テラス8席(小学生以上のお子様ご利用可・ペット可)。コースメニューは、「季節のランチコース」4800円、ディナーコースは、「薬膳スープで〆る軽めのディナーコース」7800円から「フカヒレ姿煮と燕の巣・鮑入りスペシャルコース」24800円まで(サービス料込み)。コース以外にもアラカルトメニューを選択できる。

Website:https://essence.tokyo/