Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

David Schlosser デビッド・シュロッサー

SHIBUMI Owner chef

Japanese Restaurant in Los Angeles

2016年、ロサンゼルスのダウンタウンに出現し、瞬く間に評価を高めた和食店がSHIBUMIです。LAのレストラン街であるビバリーヒルズやウエストハリウッドから離れたダウンタウンというロケーションもユニークでしたが、店のオーナーシェフが日本人ではないアメリカ人、デビッド・シュロッサーさんだということもまた注目を集めました。 コロナ禍の直前、岩手で巡り合った日本産米を顧客に提供することで、「シンプルだけどおいしい」日本産米の価値を伝え続けたいと語るデビッドさんの和食に賭ける思いについて伺いました。

SHIBUMI

基本に忠実な手法、こだわり抜いた食材で 和食文化をアメリカ人顧客に伝える

SHIBUMIは、日本直送の食材とローカル産の食材とを組み合わせて、「正統派の懐石料理」を提供する和食店です。伝説的な食の評論家、故ジョナサン・ゴールドに「ロサンゼルスのダウンタウンにあるSHIBUMIは、あたかも東京の店にいる感覚を与えてくれる」と、開店直後に絶賛された名店。古くは千利休に遡る和食のスピリットを、ロサンゼルスの空間で忠実に再現するSHIBUMIの隠れた人気メニューが、まさにベーシックな「ごはんとお味噌汁」です。「この国ではごはんは中心的な存在とは認識されていない。でも、多くの人にごはんのおいしさに開眼してもらいたい」と語るデビッドさん。彼が魂を込めて炊き上げる岩手県産の銀河のしずくは、同店の顧客に好評を博しています。

元はフレンチのシェフ、立ち寄った日本が全てを変えた

日本料理のシェフになったきっかけは2000年の日本旅行でした。しかも、私と友人の目的地はタイで、日本にはその途中で3日間立ち寄っただけだったのです。しかし、その3日間の滞在が私の人生を変えました。日本で出会った人々、仏教文化、そして何と言っても和食の素晴らしさは、私をノックアウトし、まさに「パーフェクト」な経験になりました。特に印象的だったのは築地で食べた寿司です。それまでアメリカで寿司を食べたことはありましたが、正直に言って「別物」でした。これが本物なのか、と私は衝撃を受け、もっと日本の食について知りたい、追求したいと思うようになったというわけです。

当時、私はフランス料理のシェフだったのですが、その短い日本旅行が転機となり、日本の和食店で修行することにしました。修行時代には、和食の奥の深さを思い知りました。そして、その奥深さは極めてシンプルな旨味が鍵となっています。フランス料理では、バターやクリームをふんだんに使います。しかし、和食ではそのようなものは使わずに、奥深い味わいを出すのです。そのためには、最高の食材を使い、基本に忠実に仕込みをして、丁寧な仕事で仕上げます。私は日本の京都と東京での修行を通じて、それらのことをしっかりと学びました。そして、さらに和食について学びたいという思いを強くしたのでした。

非日本人顧客にも喜ばれる「正統派の和食」

ロサンゼルスのダウンタウンにSHIBUMIをオープンしたのは2016年のことです。成功の秘訣? それは常に最高品質の料理にこだわって妥協をしないからだと思います。思い返せば挑戦の連続でした。ロサンゼルスの日本人が減少しているという背景もあり、店の顧客はアメリカ人、中国人や韓国人などのアジア系などが中心で、日本人のお客さまは非常に少数です。だから、派手でフュージョンタイプの寿司とは異なる正統派の和食は、日本人以外のお客さまには分かりにくかったはずです。

しかし、私はあくまで基本にこだわりました。たとえば、アメリカの日本食の店で人気がある「チキン照り焼き」ですが、私はこれについて徹底的に調べた結果、うちのチキン照り焼きは昔の日本人が囲炉裏で鶏肉を炭焼きにしていた手法を参考にしたレシピで調理しています。顧客には非常に好評です。

岩手で出会った銀河のしずくに感動

2019年11月、世界をコロナが襲う少し前に、私は岩手県で開催された農林水産省主催の日本産米のカンファレンスに出席しました。岩手は優良な米の産地として知られていますが、私がそこで出会ったのが「銀河のしずく」という米でした。香り高く、しかも甘く、つややかに輝く「アメージングな米」だと感動したのです。これはぜひ、自分の店で出したいと思ったのですが、問題は買い付ける際の価格の高さでした。しかし、あきらめきれなかった私は、銀河のしずくを取り扱ってもらえるようにアメリカの食品商社に自ら交渉し、それが実を結んだのです。以来、うちの店ではお米は銀河のしずくのみを使っています。

注文を受けてから鉄鍋の米に火をかける

銀河のしずくを使った当店の代表的なメニューは、極めてシンプルな「ご飯、味噌汁、香の物、佃煮」のセットです。これは通常はお食事の最後にお出ししているもので、お客さまから注文を受けてから火にかけます。注意深く研いだ米を鉄鍋で炊くのですが、出来上がりまでは8分ほどです。お客さまには、これ以上ないというほど「フレッシュ」な炊きたてのご飯をお出ししています。添えるのはジャコや昆布の佃煮、野菜の煮物などです。さらに、味噌汁に使う味噌も一から作った自家製。売られているお味噌は、どうしても塩辛く感じてしまうので、手作りすることにしました。

この「ごはんと味噌汁」のセットには全く派手さはありませんが、そういうベーシックな和食だからこそ、全てにこだわり抜くことが重要なのです。そして、このような日本の家庭で食べるような和食を経験したことがない層の顧客が、ベーシックなご飯と味噌汁をとても喜んでくれます。アメリカの食の世界では、ごはんは中心的な存在ではありません。しかし、私は「ごはんは添え物」的な考えを、この最高に美味しいごはんで変えたいと考えています。

純粋な和食文化の伝道師として

2024年3月には、ドジャースタジアムにも程近い、ロサンゼルス市内のエコーパークというエリアに、Kushibarという串カツを中心とした居酒屋をオープンします。アメリカでは焼き鳥はすでにポピュラーですが、本格的な串カツを出す店が見当たらないので、自分で手掛けようと思ったのが開店の動機です。この店ではリーズナブルな価格帯で串カツを提供します。私はロサンゼルスで串カツを食べる人にも、日本での気軽さ、手頃さを経験してほしいと思っているからです。極力、日本の本物に近いものをというのが、SHIBUMIでも実践してきた私の基本姿勢です。

基本姿勢といえば、基本に忠実な和食の提供に20年以上、私はこだわってきました。和食の形を変えてしまったら、本来のあるべきものを次の世代に引き継ぐことができなくなってしまうからです。私は純粋で正統派の和食文化の伝道師であり続けたいと思っています。

Recommended dish

Miso soup and rice 味噌汁とごはん

一連の食事の最後、SHIBUMIの常連客が締めとして注文するのが、味噌汁とごはんのセット。注文を受けてから火にかけること8分、炊き立てツヤツヤの銀河のしずくと、手作り味噌の優しい味わいの味噌汁というベーシックな組み合わせが、深い印象として人々の心に残ります。

David Schlosser

SHIBUMIオーナーシェフ

ロサンゼルス近郊のサンタモニカ出身。ロサンゼルス地域のレストランで勤務した後にニューヨークのCulinary Institute of Americaで学ぶ。卒業後、NYの三つ星ミシュランのフランス料理店George Blancに入店。その後フランスの一流レストランで数年勤務した後にアメリカに帰国。2002年、バケーションのためタイに行く際に立ち寄った日本で、日本料理と日本文化に魅せられ、フレンチのシェフから和食のシェフに方向転換。ビバリーヒルズの銀座寿司幸では高山雅氏に師事、さらに東京の米国大使館のシェフとして勤務し、京都の名店で懐石を学び、2016年にSHIBUMIを、2024年春には2店舗目となる居酒屋を開店。

SHIBUMI

Japanese Restaurant in Los Angeles

ロサンゼルスのダウンタウン地域に位置するSHIBUMIは本格的な和食と日本酒が楽しめるレストランバー。店内には樹齢400年の檜から作られたカウンターを中心とした和の空間が広がり、ダウンタウンの喧騒とは一線を画す。2016年開店時には、食の評論家ジョナサン・ゴールドによってその本格的な料理が「LA Times」紙上で絶賛され、さらにロサンゼルスの人気メディア「LA WEEKLY」でも「SHIBUMIは天才シェフの長年にわたる探求の結実であり、慎重に海を越えて運ばれた食材が目の前で提供される場所だ」と讃えられ、瞬く間に「和の名店」となった。815 S. Hill in Downtown LA. USA

https://www.SHIBUMIdtla.com