Chef’s Talk Why Japan Rice ? 日本産米にこだわるシェフの話

DAISUKE HIRAGA 平賀 大輔

ON the TABLE CHINESE Owner chef

Chinese Restaurant in Japan

文化や流行の発信地として多くの若者たちが集う東京都・渋谷区は、現在再開発が続き、新しい商業施設が次々と誕生しています。そんな日々表情を変える街並みを見守り続けてきた鎮守・金王八幡宮のすぐ側に2024年1月にオープンした「ON the TABLE CHINESE」は、歴史ある定番の上海料理から自由な発想で生まれる創作中華料理まで、訪れる人々の目と舌を楽しませるチャイニーズレストランです。ワインソムリエの資格を持つオーナーシェフ・平賀大輔さんがリスペクトするのは、土着の日本食材。中国圏の食文化に触れながら改めて気付かされたという、日本産米のポテンシャルについて伺いました。

ON the TABLE CHINESE

日常使いから記念日まで。
シーンに合わせた営業スタイル

大理石のカウンター席と個室としても寛げるテーブル席。洗練されたヌーベルシノワ(※)の節々に肩肘張らない町中華のエッセンスを取り入れ、おひとり様からグループ客まで至福の時間を過ごせる「ON the TABLE CHINESE」は、日本における中国料理界の重鎮・脇屋友詞さんの下で20年以上研鑽を重ねた平賀大輔さんがオーナーシェフを務めています。提供スタイルは、3種類の選べるコース料理を主軸に、20時以降はアラカルトもOKという柔軟な二刀流です。

「フカヒレの食べ比べコース」で王道の上海料理をじっくり味わう常連客も居れば、「パテ・ド・カンパーニュ~中華スパイス」や「スパニッシュ・オムレツ~山椒マヨネーズ」など遊び心のあるつまみと共にナチュラルワインを楽しむおひとり様も。コースのスターターには体を温めるショウガとケールの「翡翠生姜粥」、コースの締めやアラカルトとして「フカヒレ餡掛けごはん」「炒飯」と、お米料理の振り幅も豊かです。上海料理の調理技術に裏付けされた皿の中に「どんなお客様にも楽しんでほしい」というシェフのサービス精神旺盛な手仕事が光る、今注目のレストランです。

※円卓の中央に大皿で提供する従来の中国料理ではなく、フレンチやイタリアンのように一皿一皿を美しく盛り付けコース料理のように提供するスタイル。1980年代から香港で始まったと言われている。フランス語で「新しい」を表す「nouvelle(ヌーベル)」、「中国の」 を表す「chinois(シノワ)」を合わせた造語から。

心を鷲掴みにされたテレビ番組と師匠との出会い

私が料理の道を志したのは19歳。日本で人気を博した料理対決番組『料理の鉄人』を見たのがきっかけです。サッカー推薦で高校に進学しましたが、プロ選手になる夢を諦めかけた頃、「鉄人」と呼ばれる著名な料理人たちが対決後にお互いを称え合う場面を目の当たりにし、スポーツマンシップに通ずる感動を抱きました。調理製菓専門学校に入学した当初はフレンチを専攻していましたが、番組にも出演した中国料理の脇屋友詞シェフが講師として教えにきてくださり、その美しい皿の数々とまるでフレンチのような組み立てに衝撃を受け、卒業後、彼の経営する会社に就職しました。

 横浜「トゥーランドット游仙境」(現在閉店)を皮切りに、赤坂で2店舗、海を超え香港や上海など、脇屋シェフの手がける様々な業態の店舗に携わりました。その後、福岡県福岡市博多区の「蓮双庭」で6年、帰京して、まさに「ON the TABLE CHINESE」ができる前にこの場所にあったカジュアル中華「dots」で1年、料理長を務めた後退社し独立しました。今でも交流のある脇屋シェフからは、調理技術や考え方はもちろん、あらゆる業態を通してお客様へのサービス、スタッフの動かし方、経営の在り方を学ばせていただきました。また、この場所は「dots」の閉店後ビルのオーナーが事務所として使っていたところを譲り受けたもので、ご縁を感じています。

ヌーベルシノワの再構築
創造性に中華のエッセンスをプラス

脇屋シェフの下で長い間働いていた私の料理の基盤は、上海料理でありヌーベルシノワです。ただ、食べる年齢層やシーンも日々変化していくため、学んできたものを自分の中で再構築して提供することを意識しています。また、自身の店なので、自分が出したかった料理、例えば肉まんの生地を使って仕込むフォカッチャや中華スパイスを加えたパテ・ド・カンパーニュ、山椒をアクセントにしたスパニッシュオムレツ、ワインに合う前菜など中華のエッセンスを取り入れた遊び心のある料理を目指しています。

福岡にいた6年間は、九州地域の生産者の元に足を運びたくさんの刺激をいただきました。今も九州から多くの食材を取り寄せています。「自身の店で使う食材はできるだけ直接作り手に会い、舌で味わう」というスタイルは東京に戻ってからも変わらず、この食材はこのような料理になる、という背景や調理工程を生産者とコミュニケーションを取りながらメニューに組み込んでいます。

例えば、茎までおいしいニラは栃木県西方町の増田農園産。香りが爽やかなショウガ、粒が大きい「おおまさり」という品種の落花生は千葉県八街市の中込農園産など、現在店で使っている生鮮食材はほぼ自身で目利きした国産品です。上海ガニなど中国ならではの食材も仕入れていますが、いずれは日本列島の食材(佐賀のモクズガニなど)に置き換えたレシピにも挑戦したいと考えています。

日本産米と中国産米の特性を見極める

店では、お米は炒飯や土鍋ごはん、おこわ、また食材に塗す衣などにも使っています。だから、品種にこだわるというよりどんな調理にも相性のいい万能なお米がいい。現在は、先ほどニラでも名前を挙げた増田農園産コシヒカリと、中国産のバスマティ米を調理により使い分けています。増田農園産のコシヒカリは、粒が大きめで甘く、のびのび育ったことがわかる素晴らしいお米だと思います。

コースの中で提供するお粥やフカヒレ餡掛けごはんは、このコシヒカリで作っています。お粥は、生米をネギ油で炒って生米に亀裂を入れ、熱湯を加えて水分を含ませます。味付けは塩のみとシンプルですが、米の亀裂からとろっと溶け出した甘味を存分に味わえる仕上がりに。お粥は、日本産米の良さがわかりやすい料理かもしれません。またフカヒレ餡掛けごはんは、日本産米の粘り気とフカヒレの濃厚なとろ味との相性が良いですね。バスマティ米だと、私のレシピではお米が餡と馴染まず浮いてしまう気がしています。

対して、中華スパイスを使う麻婆豆腐は、香り高いバスマティ米と一緒に食べると華やかでおいしい。店では日本産米とバスマティ米を両方炊いておき、白米の注文が入った場合は2種類から選んでいただけるようにしています。

身近すぎて気付かない大切な存在に敬意を

日本産米の魅力は、甘味とふくよかな香りですね。新米はより甘いと言いますが、私は、収穫から2〜3ヶ月くらい経った熟成感のある甘さが好きです。私の故郷は千葉県で、周囲には田んぼが広がっていました。収穫期には、風が吹くと辺り一面、稲の香りに包まれます。一般的な食米(うるち米)と日本酒の仕込みに使う専用の酒米の違いがわかるほど、奥行きのある香りが漂っていたのが思い出です。また、冷めてもおいしい持久力も日本産米のポテンシャルの高さだと思います。

日本人にとってお米は、なくてはならない「主食」です。ただ、あまりにも存在が身近すぎるため、もっと食材そのものや生産者に対して理解を深めなくてはいけないと感じています。毎日食べる食材なのに、どのように育ち、どのような経路を辿って店で売られているか、私たちは知らなすぎるのです。近年深刻になりつつある気候変動のなか、少しでも安定したお米が育つよう立ち向かっている生産者の苦労は、消費者になかなか見えてこない。私も好きなワインと向き合う中で、改めてその過酷さを目の当たりにしています。ついに今年は、国内で米不足の事態にも陥りました。もちろんお米だけの話ではないけれど、1年中農作物と対峙し続ける厳しい環境の中、どんなに対応力のある日本の生産者でも、こだわりを持って進む人、諦めてしまう人と両極端に別れてしまうのはとても悲しく、私たち消費者も危機感を持つべきだと思います。

「おいしい」「おいしくない」という味の観点だけではなく、携わる人々への敬意を忘れずに、規格外のお米も含め正当な価格で評価されるよう、私たち料理人にできることはなんでしょう。私自身も、今年は稲作の田植えから収穫まで体験させていただく機会がありました。「食育」というにはおこがましいけれど、子どもの頃から食べる側の意識を高められるような活動をいつか生産者と共に実現できたらと考えています。

高まりつつある日本産米への関心

お店には、海外からのお客様も訪れます。お米料理に対しての位置付けは「主食」「締めのごはん」というよりコース料理の中の一皿、という位置付けで捉えているようです。日本や中国では大皿をシェアして食べる食文化がありますが、欧米の方は1人に1皿スタイル。器や見た目、食感から味わいまで関心を持って咀嚼しながら食べてくださっています。日本ではまだまだブランド米の力が強いけれど、海外の方はより「産地=テロワール」に関心を寄せてくださり質問してくださる方も多いです。

上海料理は、内陸の四川料理のようにスパイスを多用する複雑な調理工程は少なく、塩や醤油、腐乳などの発酵食品という味付けが多いため、白米と相性のいい食文化と言えます。ご紹介したレシピは、まさに「飯どろぼう」。白ごはんが進む一品です。また、水分量が高く持久力のある日本産米は、炊き込みごはんにも最適。パエリアのように好きな具材と一緒にフライパンで炊くだけで、白米に馴染みのない海外の方にも味わいやすい料理になると思います。ぜひ、日本産米を知る機会にしていただけたら嬉しいです。

Recommended dish

Sautéed Kuroge Wagyu beef with black vinegar(served as part of a course meal) 黒毛和牛の黒酢炒め(コース料理の一品として提供)

コースのメイン料理として提供される「黒毛和牛の黒酢炒め」は、柔らかなヒレ肉を酢豚風に仕上げた店のスペシャリテ。牛肉の下に敷かれたジャガイモと豆乳のグラタン(ドフィノワ)の優しくなめらかなコクが、肉の旨みと甘酢を懐深く受け止める。トップにはハーブと食用菊。瑞々しいニラとザーサイを合わせたソースが全体を引き締め、「炒めもの」の域を超えた思わず溜息が漏れる一皿に。

平賀大輔

ON the TABLE CHINESE Owner chef

「ON the TABLE CHINESE」オーナーシェフ。1980年千葉県生まれ。19歳で料理の道を志し、大皿で豪快に供する従来の中国料理とは一線を画するヌーベルシノワを切り開いた料理人・脇屋友詞氏の下で20年以上修業を重ねる。2013年に日本で開催されたコンペティション「RED U-35 2013」では、「GOLD EGG」を受賞した。2024年1月に満を辞しての独立。ワインソムリエの資格を持ち、型に囚われないワインと中華創作料理のマリアージュを日々追及する。

Instagram ID:@daisukehiraga39

ON the TABLE CHINESE

Chinese Restaurant in Japan

上海料理を基盤に、新しい発見や高揚感に出会えるヌーベルシノワを提供するチャイニーズレストラン。高級食材であるフカヒレや上海ガニなどの定番料理はもちろん、パテ・ド・カンパーニュやスパニッシュオムレツなどの他国のエッセンスを散りばめたメニューはどれもお酒の進む一皿。カウンター8席、テーブル席8席(個室としても利用可)。おまかせやフカヒレ食べ比べコースなど、選べる3種類のコースは6600円〜 (サービス料込み)。20時以降はアラカルトにも対応。

https://www.tablecheck.com/ja/onthetablechinese