空間、食材、もてなしの心までこだわり抜き、京都の伝統料理に新しい風を吹き込む
「古都・京都の空気を銀座で味わえる空間」をコンセプトとする「銀座ふじやま」は、オープンから1年を待たずしてミシュラン一つ星を獲得した日本料理店。銀座レンガ通りに佇むビルの7階に位置するこの名店、エレベーターの扉が開くと、日本の伝統建築・数寄屋造りでしつらえた端正な空間が広がります。奥に進めば、カウンター席に到着。日本の伝統技法で磨き上げた一枚板のカウンターには、デンマークの家具デザイナー、ニールス・O・モラーによる1900年代半ばのヴィンテージ・チェアを組み合わせています。
また、季節に合わせて選んだ掛け軸や骨董品、生け花などにも、細やかなおもてなしの心遣いとセンスの良さが滲んでいます。伝統とモダンが調和したスタイリッシュなこの店には、30代〜80代まで幅広い世代のお客さまが訪れ、記念日や商談などにもよく利用されているそうです。

務めるまでに腕を磨いた料理人。文化・芸術・美術品などにも造詣が深く、数寄者(すきしゃ=風雅な物事を好む人)のごとく、内装に使う木材から家具などの調度、骨董品や美術品などの装飾品、さらには食器の一つひとつまで、自らこだわり抜いたものを選び、食材も日本全国から選りすぐりのものを集めています。
日本産のお米の美味しさをいかに引き出すかにもこだわっており、信楽焼の窯元に炊飯用のオリジナル土鍋を作ってもらったそう。「コース料理を全てお出ししたら、最後はツヤツヤに炊き上げた白いごはんを味わっていただく。それが一番の贅沢」と藤山さん。甘くてもっちりとした日本産のお米は、それ自体が最高の“ご馳走”になるとのこと。お米の味わいを大切にするために、具材と一緒に煮込む炊き込みごはんを作ることはほとんどないのだそう

子どもの頃から料理人に憧れ、
京都で生まれ育ったことから日本料理の門を叩いた
僕の母は、料理もおやつも全て手作りする人やったんです。キャラメルでもケーキでも何でも作ってくれて、料理の原点は母から学んだと思います。けれど、一時期、父が入院し、付き添いで母が留守がちになったことがありまして。家に帰っても食べるもんがなくて、自分で卵を焼いたりしましたね。母の真似をしながらキッチンで遊んでいるうちに、料理を作る面白みを発見し、以来、街の飲食店の風景を見るのが好きになりました。喫茶店を覗いてはコーヒーを入れてはる姿を見たり、洋食屋さんのガラス窓に張り付いて料理人を探したりして、「カッコええなあ」と憧れていましたね。
中学生の頃にはフレンチのシェフに憧れるようになり、「本場フランスで修行させてくれ」と親に頼みましたが、高校だけは卒業してほしいと言われてしまって。嫌々ながらも高校に通い、料理のことを考え続けた結果、「自分は日本人であり、日本料理の中心となる京都で生まれ育ってきた。それならフランスに行くよりも日本料理の道に進んで、勉強したほうがええんちゃうか」と思い直しましたね。
高校卒業後に日本料理の門を叩き、18歳から京都・木屋町の板前割烹で働き、基礎的な技術を身につけていきました。その後、知人の紹介で老舗料亭の和久傳に入ったのは24歳の頃ですね。運が良かったのか、僕は27歳で室町和久傳、32歳で高台寺和久傳の料理長に就任し、最終的には和久傳全体の総料理長という立場を任せてもらうことができました。

「皿の上だけではあかん」おもてなしの心で
料理を自然体で楽しめる空気を生み出す
和久傳では多くのことを学びました。高度な料理の技だけでなく、お客さまに向き合う考え方やおもてなしの心構えなど、とても大切なことが身についたと感じます。どういうことかといえば、「料理を作っているだけではあかん。皿の上だけ、調理場だけではあかん」ということなんですよ。僕ら料理人が作ったものは、サービス担当の方がいてこそお客さまに届けることができますし、美味しい料理は素晴らしい食材の生産者がいてこそ作れるものです。和久傳で働く前は、若さも手伝って「料理人は美味しいもんを作ればええんやろ」と思っていましたが、全てに対して感謝の心を持つようになりました。
また、店に飾るお花ひとつとっても、女将さんはおもてなしの心を大切にしながら選んでいました。店の中は緊張感でぴんと張り詰めていましたが、お客さまが一歩足を踏み入れ、女将にもてなされて腰を下ろす瞬間には、ほっと和らぐ空気が生まれていたのです。料理はただ提供すればいいわけではない。細やかな心遣いで緊張感を緩和し、料理を楽しんでいただける文化を自ら創り上げていくことが大事なのだということも、全て和久傳で学ばせてもらいました。
日本一食材が集まる東京で独立。
気仙沼から取り寄せた極上のフカヒレを使った料理が評判に
僕が独立を決意したのは、45歳手前の時期でした。総料理長として人材育成やメニューの構成・統括などを手掛けることにもやりがいを感じていましたが、その一方で「もう一度、料理人・藤山貴朗として挑戦してもええんちゃうか」という葛藤が芽生え、新たな一歩を踏み出そうと、次のステージに選んだのが東京でした。和久傳や和久傳出身者のレストランが出店されていない街で、一料理人として挑戦がしたいと思ったのです。
また、東京は日本一の食材が集まるところでもあります。地の利を活かすという意味も込めて、さまざまな土地の食材や扱ったことのない食材に貪欲にチャレンジしていこうと決めました。全国の各地、こだわりや思いを持っている生産者の方から素晴らしい食材を集め、料理そのものはなるべくシンプルに仕上げることを心がけています。

当店の代表的な料理である「焼きフカヒレのあんかけ」は、気仙沼から取り寄せた極上のフカヒレをこんがりと焼き上げ、鰹と昆布をベースにとった出汁をたっぷりと含ませ、マイクロハーブのロックチャイブ(ネギの風味を持つ小さなハーブの芽)を添えています。フカヒレをひと口召し上がったら、そこに香りや風味が最も立つ瞬間の白いごはんをほんのひと口添えるのですが、ここで登場するのが、信楽の窯元にお願いして作ってもらった炊飯専用の土鍋です。ひょうたん型のこの土鍋は吹きこぼれにくく、内側を素焼きにしたことで程よく水蒸気を吸ってくれて、最高の状態で炊き上げることができます。

※オリジナルの炊飯用ひょうたん型土鍋
日本産のお米は、山から流れる清い水の恩恵を受けて育つ。
同じ土地の水を使うことで美味しく炊き上がる
銀座ふじやまでは、京都・丹後の農家、香山さんが育てているコシヒカリを使っています。甘味があるけど、さらっとしていて甘すぎない。粒も大きくて、炊いたときの粒だちも良い上に、冷めても美味しいですね。
お米を炊くときは水が大事なので、生産地と同じ丹後地方の水を使っています。京都で料理人をしているときは気づきませんでしたが、東京に来て出汁を引いてみたとき、その味わいが全く違ってしまうことに驚きました。しかし、水質に合わせて昆布や鰹を探すのも違う、味が全く変わってまうな、と思ったので、京都・丹後の酒蔵から定期的に仕込み水を送ってもらうことにしました。
生産地によってお米の味わいは違いますが、日本産のお米に共通している大きな特徴は、ツヤ、粘り、甘味があること。それらが三位一体となり、ツヤツヤの美味しいお米を炊くためには、同じ土地の水を使うことが大事ですね。

日本独自の食の歴史は、
お米が美味しいからこそ生まれたと感じる
日本産のお米にはさまざまな食べ方があります。炊き上がった白いごはんそのものに力があるから、力強いものとも共鳴し合い、一緒に食べても美味しい。お米が美味いから負けへん。その一方、あっさりとした味噌汁と漬けもんだけでもいいし、そこに何か別のおかずや振りかけるものがあったら、それと合わせてももちろん美味しい。そして、いろんなおかずを交互に食べても、ちゃんと美味しいんですよ。
ただし、炊飯の前にはしっかりと浸水させることが大事です。30分でも1時間でも浸水させることで、お米のツヤも粘りもちゃんと引き出してあげることができます。また、お米を洗いすぎないことも意識していただきたいですね。洗いすぎるとお米が割れて美味しくなくなってしまいます。日本の水は軟水なので、お米を洗うときも炊くときにも軟水を使っていただければと思います。
それから、僕自身としては、炊き上がったお米は小さく盛って少しずつ食べることをおすすめします。炊きたてから次第に変化していくお米の美味しさを楽しめると思います。

日本人の心の根本にはお米がある。
寿司、丼、お菓子まで、多様な食べ方を楽しんでほしい
そもそも日本という国が成り立ったのは、お米があったからなんですよね。稲作によって信仰心が生まれて、村社会ができて、人とのつながりができていった。稲作は共存・協力していかないとできないことなので、手を取り合って互いに感謝し合う。そうした歴史があってこそ、日本人のおもてなしの心につながっていったと思うんですよ。
僕自身、そうした感謝の心を大切にするために、毎年、新米の季節になると、香山さんの稲で作った「稲穂飾り」を店に飾っています。
海外の皆さんには、日本ならではの美味しいお米を味わっていただきたいと思います。寿司のほかにも、天丼などの丼ものもあれば、お米を使ったおかきやポン菓子(※)などもあります。こんなにも多様なバリエーションでお米を楽しめるのは、日本ならでは。お米を愛する日本人の文化と思いにぜひ触れていただけたらと思います。
(※)米や麦を穀物膨張機(圧力釜)で圧力をかけて作る日本のお菓子。圧力解放時に「ポン」と音がすることから、ポン菓子といわれています。

Recommended dish
Grilled shark fin with thick sauce 焼きフカヒレのあんかけ
気仙沼の信頼できる仲卸しから仕入れた極上のフカヒレを使用。鰹と昆布をメインに、星貝柱、干しエビ、干し椎茸も合わせた旨みたっぷりの出汁をしっかりと吸わせている。香ばしく焼き上げたフカヒレに、あっさりとしながらも滋味深いあんをとろりと絡めた新感覚の味わい。銀座ふじやまでは、炊きたての白いごはんをひと口分だけ乗せて味わうことができ、香り高いあんの旨みをより深く感じることができる。