Column Restaurants with Pristine Japanese Rice 日本産米がおいしいレストラン

Morihiro 生産から品質管理、セールスまで。全てを経験した、ミシュランシェフが追求するお米の美味しさ

全米第2の人口を誇る都市ロサンゼルスでは、多民族共存が食文化に反映され、さまざまな料理を気軽に楽しむことができます。アジア系コミュニティの影響で日本米も人気が高いのが特徴です。今回お話を伺ったのは、LAの寿司文化を確立したシェフの1人と評され「Morihiro」の小野寺盛浩さん。お米に強くこだわり、生産から販売まで行った経験を持つお米のエキスパートでもある小野寺シェフに、日本産米の魅力についてお伺いしました。

多様な食文化と健康志向が交錯する都市ロサンゼルス

ロサンゼルスは健康志向が強く、ヴィーガン、オーガニックフードに対する関心が非常に高い街です。人種はヒスパニック系が約半数を占め、白人は少数派。各民族の食文化によって好まれるお米の種類も変わるため、スーパーで取り扱っているお米の種類は非常にバラエティ豊かです。多いのは長粒米で、日本産米は取り扱いがありませんが、「sushi rice」として親しまれているカリフォルニア産日本米品種(中粒種)は気軽に手に入ります。一方、高級寿司店では日本産米(短粒種)が好んで使われます。

日系スーパーには多くの日本産米が並び、日本産米を使ったお寿司やおにぎりも手に入ります。その他のアジアンスーパーに日本産米はなく、カリフォルニア産の日本米品種が人気です。

「Morihiro」について教えてください

2000年にLAで「Mori Sushi」という寿司屋をオープンしました。10年近くシェフを務めましたが、新しい学びを得たい気持ちが強くなり、2011年にそこをやめ、それまで店と並行して行っていたお米の栽培に専念することにしました。田牧米の田牧一郎さん(※1)と世界各地を回り、辿り着いたのがお米の栽培に適したウルグアイ。そこでのお米の栽培に区切りをつけた後、2020年に再びLAに「Morihiro」をオープンしました。

「Morihiro」ではお寿司をメインディッシュとした2種のコース、「Omakase At Table」と「Omakase At Sushi Bar」を提供しています。素材の旬にこだわり、新鮮さを大切にしています。お客さまはローカルの方がメインです。店内は知人の大工さんにお願いして一から設計してもらい、カウンターなども誂えてもらいました。料理でも何でも、オリジナルを大切にしています。

※1 田牧一郎:日本でお米作りに従事した後アメリカに移り、精米事業に従事。自らの名を付けたブランド米「田牧米」を世界に販売した。「田牧米」は美味しいお米として北米市場に定着している。

最高の食感を提供するにはお米の割れ率10%以下が理想

小野寺シェフにとって美味しいお米とはどんなお米ですか?

私が考える、美味しいお米というのは、お寿司でいうと、お米の一粒一粒がしっかり口の中で分かり、そして、ツルッとした食感をしている。

それを目指すために、米100粒の中で何粒の割れがあるかを定期的に調べています。割れがあると、口に入れたときに澱粉質が出るので食感が悪くなってしまいます。私の理想は、割れ率10%以下です。100粒で10個以下の割れであったらよしとしていますが、私の扱っているお米は、見ての通り割れがありません。そして、お米の水分値も測っています。水分値は14%以上なら良いと考えています。これ以上ドライになったものは、一切使いたくないんです。

お店で使用している品種を教えてください。

2種類仕入れています。農家の方が以前から作っている「あきたこまち」と、「陸羽[りくう]132号」です。陸羽132号は冷害に強い品種で、岩手県出身の宮沢賢治がとりわけ推奨していたお米です。岩手に古くからあるお寺の和尚さんがこのいわれを聞き、最近、里山プロジェクトとして子どもたちと一緒に陸羽132号を作り出しました。そこからこの品種を作る農家の人たちが増えてきているといいます。お米は毎年5トンを仕入れていますが、陸羽132号は200キロ程しか獲れない貴重なお米なので、特別なときに使おうと大事にとってあります。

生産したから分かる——「日本産米の品質は格別」

日本産米を選んだ経緯を教えてください。

私の田舎は岩手で、お米農家の方々が高齢になっていること、そしてお米を作っても安く買われ赤字になってしまっている状況をよく知っていました。サクラメントで日本産米の品種「コシヒカリ」を完成させ、ウルグアイで米作りに取り組み、自分の満足いくお米を作り、販売もしてきました。ですが、やはり日本産米の品質は格別です。郷里のために何かしたいと、プレミアム価格で購入するからお米を作ってほしいと地元のお米農家の方にお願いしました。

お米の管理はどうしていますか?

毎年10月頃に日本から5トンのお米を輸入し、業者の冷蔵庫で保管しています。そして毎週、使う分だけ業者の方に店に運んでもらい、毎日店で精米しています。

毎日精米するのはなぜですか?

どんなにいいお米でも、精米してから3日以内しか鮮度が保てません。3日以内に全部使い切りたい。じゃないと美味しさが保てないんです。お寿司でも白ご飯で食べても、(新鮮だと)食感が全然違います。それに気づくまで、何十年も試行錯誤しました。田牧さんの田んぼでお米を作るようになり、その玄米をお店に持ってきて精米機で毎日精米するようになったら、味が一定したんです。どうしたら食感が良くなるかも研究しました。玄米から2回削って精米するようになりました。精米機に2回通して、表面だけ米が削ると割れが大きくなるので、少しずつ削っています。 そうしたら食感がものすごく良くなりました。日本であればお米屋さんが全部やってくれるようなことですが、こちらにはそのシステムがないので自分でやるしかない。山形の精米機を店に入れて使用しています。

(左)山形から持ってきた精米機で毎日精米していると話す小野寺シェフ
(右)手前が1度、奥が2度精米したお米。2度精米したお米のほうがほのかに白い

水にこだわりはありますか?

ロサンゼルスエリアの水は硬水なので、浄化して軟水にして炊いています。水というよりは、洗い方にこだわりがあります。お米はよく洗ったほうがいい。汚れが取れ、ツルツルした口当たりのお米になります。

今後の展望

私は最期の時まで寿司を握り続けたいと思っています。

自分で食べてみた中で、このように握りたいと思ったのは銀座「すきやばし次郎」の小野二郎さんのお寿司です。初めて食べに行った時、次郎さんは60代後半くらいで、「どうやったら美味しくできるかなと、毎日考えているんですよ」とおっしゃっていました。その時は「冗談でしょう?」と思いました。でも、私は今年60歳になったんですが、同じことを考えていることに気づきました。握る技術もですが、「美味しくなる」に至るまでの過程も私は好きなので、ずっと研究を重ねています。私は北大路魯山人の言葉「器は料理の着物」にとても共感しています。器は料理の味や香り、盛り付けを引き立てます。私は昔から、オリジナルのものを作りたいという気持ちが強く、器も手作りしています。料理にはそれにふさわしい器があり、素材、米、季節、器といった要素すべてが調和することで初めて本当の美味しさが引き出されます。それぞれの要素を丁寧に見極め、どう組み合わせれば美味しさをさらに高められるかを探り続けたいと思っています。

小野寺シェフが制作した抹茶茶碗


民族的多様性に支えられているロサンゼルスの食文化。お米はロサンゼルスの人々にとっても身近な存在で、それぞれの食文化に合ったお米が揃っています。その中でも日本産米は、お米を熟知した小野寺シェフも「格別」と明言するほど。多くの有名店が日本産米を好んで使うほど日本産米の食味は優れているのです。カリフォルニア産米の販売力の強さに押されてはいますが、アメリカでの米消費量は年々拡大しつつあります。食味豊かな日本産米は、今後いっそう認知を高めていく可能性を大いに秘めています。

美味しいお米を炊くコツは?

お米を素早く、そしてよく洗うことだと思います。まず、お米に水を入れたらゆすいですぐに捨てます。最初の汚れた水をお米が吸ってしまうので、なるべく早く捨てたほうがいいです。続いて3回軽くゆすぎます。その後、軽く2回洗います。そして初めと同じように軽く3回ゆすぎます。そこまですると水がクリアになります。食感もツルッとします。土鍋で炊くのもおすすめです。郷里で、祖母はかまどでご飯を炊いていました。その味は再現できないと思っていたのですが、土鍋で炊いたごはんは祖母のごはんと同じような美味しさを感じました。私にとって土鍋炊きは新たな発見でした。

日本産米と合う食べ物は?

ローカルの方に向けて日本産米を紹介する機会があり、過去には塩おにぎりやぬか漬けを紹介しました。万国共通で香の物(漬物)は好きな人が多いです。また、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のFood and Scienceの講演ではカレーライスを紹介しました。どれもとても好評でした。

小野寺 盛浩さん(Morihiro Onodera)

総料理長

東京、LA、NYで「Matsuhisa」「Katsu」「R-23」「Hatsuhana」等、名だたる名店で20年間勤務し、2000年に自身の名を冠した「Mori Sushi」をLAにオープン。同店は2008年、2009年にミシュランガイドの星を獲得。その間もお米の美味しさを追求し続け、サクラメントでお米の栽培に着手。2011年に「Mori sushi」を売却し、ウルグアイに渡り米栽培に一心に取り組む。2020年に再びLAに自身の店「Morihiro」をオープンさせると大きな話題を呼び、瞬く間にミシュランガイドの星を獲得。食材の持つ個性を最大限に引き出しつつ細部にまで心を配る姿勢は、器のデザインにまで及ぶ。精米後3日以内というお米の鮮度の原則を守り続け、このこだわりが「Morihiro」のシャリ(寿司飯)1粒1粒が持つ上質な食感と味わいを生み出している。